公爵閣下、あなたが亡妻を愛し続けるので後妻の私を愛せないというならお好きなようになさったらいいですわ。ただし、言行不一致で私を溺愛するなんてことは勘弁して下さいね
 公爵の突然の誘いに動揺を禁じ得ない。

 その瞬間、気がついた。

 ああ、そうか。はやくも「お飾り妻」は不要だというわけね。ということは、「会ってもらいたいもの」というのは、ちゃんとした身分とまともな育ちと素晴らしい外見と内面を持つレディのことなのね。その彼女に紹介したいわけね。

 そう思いいたると、そのことに予想以上にショックを受けた自分に驚いてしまった。

 それこそ、目の前がくらむほどの衝撃だった。

 いつかはこうなる。いつかは「お飾り妻」の役目は終了する。

 いつか愛のない形だけの夫婦関係が解消されると、覚悟はしていた。

 そのはずなのに……。

 いいえ。違うかもしれない。偽装結婚が終わりを迎え、「お飾り妻」の任務が終了したことがショックだというわけではないのかもしれない。

 ということは、公爵が他のレディと結婚するということがショックなわけ?

 あれだけ姉を愛していたはずの彼が、他のレディに気持ちを傾けているということにショックを受けているの?

 でも、それだったらいいことだわ。どうせ姉も不貞を働いていたのである。そんな姉の真実を知らないまま、公爵が他のレディを愛するようになったら喜ばしいわ。

 そんな彼を祝福し、応援をしなければ。
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