公爵閣下、あなたが亡妻を愛し続けるので後妻の私を愛せないというならお好きなようになさったらいいですわ。ただし、言行不一致で私を溺愛するなんてことは勘弁して下さいね

ファース王国軍の駐屯地

 馬車は、王都を出て街道を走り続けている。馬車のカタカタと揺れる振動が心地よすぎる。

 ときおり、窓外に視線を走らせる。いくつかの村や町を通りすぎ、森や林を抜けて行く。

 近くには木々や家々や人々や動物たちが流れていき、遠くには山脈がドシンと構えているのが見える。

 ウインズレット公爵邸を出たときと同じように、公爵はわたしの前に座ってずっと話をしている。とはいえ、彼が一人で喋り続けているわけではない。わたしもいろいろ喋っている。

 その内容は、ほんのささいなことから(まつりごと)や経済や軍事のことまで多岐に渡る。しかも、話題は尽きることはない。

 図書館を出発したときには、動揺と混乱と不安とでいっぱいだった。だけど、癒される景色と心地いい振動、それから公爵との会話でずいぶんと落ち着いてきた。

 とはいえ、同様と混乱と不安がまったく拭い去られたというわけではない。

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