公爵閣下、あなたが亡妻を愛し続けるので後妻の私を愛せないというならお好きなようになさったらいいですわ。ただし、言行不一致で私を溺愛するなんてことは勘弁して下さいね
「ガタッ」

 大きな振動にハッとした。

 なんてこと。いつの間にか眠ってしまっていたのね。

 なにかによりかかるようにして、すっかり眠ってしまっていたみたい。

「寒い」

 馬車内のあまりの寒さに、小さく震えてしまった。

 夜特有の寒気に、全身をなでられたかのようだわ。

 両腕で自分自身を抱くと、肩に重い感触があった。

 両肩に視線を落とした。先程とは違い、馬車内に月光が射し込んでいる。そのわずかな月の光の中、それが将校服の上着であることが見てとれた。
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