公爵閣下、あなたが亡妻を愛し続けるので後妻の私を愛せないというならお好きなようになさったらいいですわ。ただし、言行不一致で私を溺愛するなんてことは勘弁して下さいね
 このコートは、顔を隠したり変装をしたり寒さをしのいだりと万能アイテムなのである。
 これは、ボスが太って着れなくなったということで譲り受けたおさがり。

 大切に着ていたし、着る機会がなくなったいまでも大切に側に置いている。

 すばやく着替えた。

 上から下まで真っ黒で、いかにも怪しげに見える。でも、パッと見はやんちゃな年頃の少年のような印象を受けるはず。というよりかは、やんちゃなことをたくらんでいる少年といったほうがいいかしら。

「何でも屋」の任務では、潜入調査以外はだいたいこの恰好をしていた。

 最後に小銭をズボンのポケットに入れ、準備完了。

 テラスへ出、カーテンを閉めてからガラス扉もちゃんと閉めた。

 テラスのすぐ前の大木の枝に飛び移る。

 こういうとき、ちんちくりんは身軽でいいのよね。

 スルスルと幹をおりると、屋敷の裏口へと向かった。

 目指すは西街区。

 目的地は、姉の死の真相を知っているかもしれないジェローム・ダンヴィルが出没するというバーである。
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