公爵閣下、あなたが亡妻を愛し続けるので後妻の私を愛せないというならお好きなようになさったらいいですわ。ただし、言行不一致で私を溺愛するなんてことは勘弁して下さいね
 ジェロームを見つけたのは、エドモンド兄弟の情報通り西街区でもいろいろな意味でヤバい区画にある「三日月亭」だった。

「三日月亭」は満席で、シガレットとアルコールのにおいでクラクラしそうである。

 ボスがここにいるわけはないけれど、エドモンド兄弟がいるかもしれない。

 もともとエドモンド兄弟がジェロームの存在を探り当てたのである。ジェロームを尾行、監視していてもおかしくない。

 店内をさっと見たかぎりでは、エドモンド兄弟の気配はない。だけど、二人は変装の名人。どこに潜んでいるかわからない。

 ジェロームは、シガレットを吸いながら葡萄酒をあおっている。というか、葡萄酒をあおりながらシガレットを吸っている。

 ここでは、中肉中背で金髪碧眼という、どこにでもいそうな外見の男性の方が少ない。

 だから、ジェロームだとすぐにわかった。
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