公爵閣下、あなたが亡妻を愛し続けるので後妻の私を愛せないというならお好きなようになさったらいいですわ。ただし、言行不一致で私を溺愛するなんてことは勘弁して下さいね
 西街区の最も危険な地域を足早に歩いている。

 このまままっすぐウインズレット公爵邸のある南街区に戻るわけにはいかない。

 南街区に戻ってからも、公爵邸までは遠まわりをしなければならない。

 南街区に戻るまでも、ムダにあちこち歩きまわるしかない。

 万が一にもつけられたときの為に、わたしの素性が知れてしまうようなことは極力避けなければ。

 というわけで、西街区の危険な地域をウロウロしている。

 この辺りは、家をもたない人々が多い。

 石畳の上にシートや藁を敷いたり、石段やベンチや草の上に直接身を横たえ、夜をすごすのである。

 夏は暑く、冬は凍えてしまうほど寒い。

 教会や慈善団体が定期的に炊き出しをしたり飲食物を配ったりしているが、それも充分には行き届いていない。行き届いたとしても、分け与えられる分量はそう多くはない。

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