公爵閣下、あなたが亡妻を愛し続けるので後妻の私を愛せないというならお好きなようになさったらいいですわ。ただし、言行不一致で私を溺愛するなんてことは勘弁して下さいね
 とにかく、ひたすら足を動かした。そう長くない人生の中で、これほど両足を速く動かしたことはない。そう断言出来るほど動かし続けた。

 階段を一段ずつ飛び抜かし、段や茂みを飛び越え、柵や塀をよじ登り、とにかくありとあらゆる道を進んだ。もちろん、道以外のところも。

 障害物をものともしない。ちんちくりんだからこそ、身が軽い。どんなものでも乗り越え、無理矢理通り抜け、通りすぎる。

 ダメだわ。あいつら、まだついてくる。

 努力も虚しく、何者かたちはまだ追ってきている。

 もしかすると、振り切ることが出来ないかもしれない。

 だんだん焦ってきた。 

 大丈夫。まだ息は切れないはず。だけど、(それ)も永遠に続くわけではない。最近、司書の仕事で図書館にこもっていることが多かったから、「何でも屋」にいたときのように体を動かしていない。

 体がなまってしまっている。

 ちょっと待って。
< 195 / 356 >

この作品をシェア

pagetop