公爵閣下、あなたが亡妻を愛し続けるので後妻の私を愛せないというならお好きなようになさったらいいですわ。ただし、言行不一致で私を溺愛するなんてことは勘弁して下さいね
「よかった。ほんとうによかった」

 一瞬、月が雲の中に隠れた。だけど、すぐに出てきた。そのせいで地上も一瞬だけ暗くなったけれど、また明るくなった。

 公爵の瞳の真夏の空と同じ蒼色が、わたしが無事なことに心から安堵してよろこんでいるかのような色にとってかわったような気がした。

 気のせいかもしれないけれど。

「公爵? まさか、ウインズレット公爵? 冷酷非情の『銀仮面の騎士』?」

 公爵にいとも簡単にふっ飛ばされて石畳の上に背中から落下したジェロームは、やっとのことで起き上ってきた。

「ぼくもいるんだけな」

 イーサン? いまのソプラノボイスは、可愛らしいイーサンに違いない。

 公爵の大きな体で見えなかったけれど、彼も来てくれたのね。
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