公爵閣下、あなたが亡妻を愛し続けるので後妻の私を愛せないというならお好きなようになさったらいいですわ。ただし、言行不一致で私を溺愛するなんてことは勘弁して下さいね
 今朝は、よりいっそう寒い。寒気がまともに襲ってくる。

 わたしはまだ調査用のコートを着用しているからいいものの、公爵はシャツにズボンだけである。いくらがっしりしていて軍で鍛えているからといって、この恰好では寒いに違いない。

「公爵閣下、寒くありませんか?」

 彼の背中に呼びかけたのは、ちょうど南街区に入ったところだった。

 周囲の様子は、いままでとは雰囲気が異なる。

 長く続く塀。木々の間に見える屋敷。

 もちろん、人の気配はまったくない。

 声をかけた瞬間、彼は足を止めてこちらを振り返った。

「そうだな。さすがにシャツだけでは肌寒い。だが、大丈夫。こういうことは、根性と気合で乗り切れる。

 さすがは武闘派。暑さ寒さは、すべて根性と気合いで解決するのね。
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