公爵閣下、あなたが亡妻を愛し続けるので後妻の私を愛せないというならお好きなようになさったらいいですわ。ただし、言行不一致で私を溺愛するなんてことは勘弁して下さいね

く、口づけ?

 深呼吸をすればいいということは、ボスに教えてもらった。
 それは熱くなった気持ちや怒りを抑える為に行うもので、たいていは何度かそれを繰り返すことで気持ちや怒りが落ち着く。

「公爵閣下、落ち着きましたか?」
「あ、ああ、ああ」
「公爵閣下。先程のお話ですが、あなたは亡くなった姉を想い続けているわけではないのですね?」
「そうだ。クラリスは、言葉は悪いがエルガー帝国の諜報員や協力者どもあぶりだす為に接触したにすぎない。向こうもおれを嫌っていた。というよりかは、おれにまったく興味がなかった。彼女もおれも、たがいに興味すらもてなかったわけだ」
「彼女がウインズレット公爵家で盗みや横領をしていたことは?」
「知っている。すべて承知していた。だから、彼女が盗んだり横領したのは、あらかじめ準備していた少額かダミーだ。執事長役のモーリスをはじめ、屋敷で使用人のふりをしている諜報員たちがしっかり見張っていたからな。彼女がほんとうに得ることが出来た額は、ほんのわずかだ」
「なるほど」

 としか答えようがない。
< 247 / 356 >

この作品をシェア

pagetop