公爵閣下、あなたが亡妻を愛し続けるので後妻の私を愛せないというならお好きなようになさったらいいですわ。ただし、言行不一致で私を溺愛するなんてことは勘弁して下さいね
 いずれにせよ、無一文のわたしが出向いたところでお話にならないから。

 そのとき、紙の束の間から一枚の紙片が落ちた。

 拾って開けてみると、契約書っぽい感じがする。その紙の端っこに、姉のきたない字で走り書きがある。

「酔ったジェロームのもの。念の為の保険」

 そのような内容である。

 もっとも、「酔った」と「保険」のスペルが間違っているし、文脈もおかしいけれど。

 興味がわき、ザッと目を走らせた。

 見終わる頃には、クローゼットを飛び出していた。そして、主寝室へと続く扉を音高く開けていた。
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