公爵閣下、あなたが亡妻を愛し続けるので後妻の私を愛せないというならお好きなようになさったらいいですわ。ただし、言行不一致で私を溺愛するなんてことは勘弁して下さいね
「さすがはおれの弟子だ。身を潜め、息を潜めてちゃっかり盗み聞きしたというわけだ。野郎(おとこ)はそれが任務でないかぎりは見てみぬふりをするものだが、レディは噂話の種にとがっつり見聞きする。怖ろしいかぎりだ」
「ちょっ……。ボス、いまのは聞き捨てならないわ。『瞼をカッと見開けて盗み見し、耳の穴をかっぽじって盗み聞きしろ』って教えたのはボスでしょう? わたしは、いつだってその教えを忠実に守っているだけよ」
「はいはい、わかったわかった。そういうことにしておこう」

 まったくもう。ブレントンに誤解されたらどうするのよ。
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