公爵閣下、あなたが亡妻を愛し続けるので後妻の私を愛せないというならお好きなようになさったらいいですわ。ただし、言行不一致で私を溺愛するなんてことは勘弁して下さいね
「だいたい『ミユ、今朝も可愛いな』とか、気恥ずかしいことが言えるか? そんなことを言える相手は、死んだ家内だけだ」

 ボスが断言した。

 そうなんだ。ボスは、気恥ずかしいことでも奥様には言えるわけね。

「それでも信じがたいわ」
「おまえはほんとうに疑り深いな。勝手にしろ。ジリアン、行くぞ。ブレントン。ロバートを捜して迎えに来るよう言っておくから、もうしばらくここにいるといい」

 ブレントンとわたしが乗っていたウインズレット公爵家の馬車は、この辺りの雰囲気にそぐわないほどの派手さと豪華さがある。だから、ロバートはずっと馬車を走らせてくれているのである。

 ボスとジリアンが事務所を出て行くと、ブレントンと二人っきりになった。
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