公爵閣下、あなたが亡妻を愛し続けるので後妻の私を愛せないというならお好きなようになさったらいいですわ。ただし、言行不一致で私を溺愛するなんてことは勘弁して下さいね
 昔、稼げる肉体的な仕事を探していた。肉体的といっても、ふつうのレディのようにセクシーさを売りにする系ではない。そのままずばりで、体力勝負のことである。

 彼には包み隠さず話をした。あの頃のわたしは、自分が男爵家の娘であるにもかかわらず、貧乏だとか落ちるところまで落ちているとか、恥ずかしさなどどこかに置き忘れていた。だから、恥も外聞もなく事情を話せた。

 すると彼は、誘ってくれたのである。

「ちょうど上流階級に潜入出来るような女性調査員が欲しかった」

 彼は、たしかそんなようなことを言ったと思う。

 いまにして思えば、彼はわたしが気を遣わないよう配慮してくれたのだ。

 とはいえ、すぐに彼に失望させてしまった。
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