公爵閣下、あなたが亡妻を愛し続けるので後妻の私を愛せないというならお好きなようになさったらいいですわ。ただし、言行不一致で私を溺愛するなんてことは勘弁して下さいね

姉のクラリス・ウインズレット

 手を差し伸べてくれた人というのは、ブレントン・ウインズレット公爵。このファース王国に三家ある公爵家の筆頭公爵家の当主であり、ファース王国軍の司令官の地位についている人物である。

 男爵令嬢でありながら貴族社会には疎く、一日一日を懸命に生きているので風聞すらきくことのないわたしですら、ウインズレット公爵の噂はきいたことがあった。

 とにかく変わり者で、不愛想で不躾で乱暴者でと、およそいい噂は一つもない。

 しかも、つねに銀仮面で顔の上半分を隠している。それは、顔があまりにも醜いとか傷や火傷の跡があるとか言われている。

 なにより、精神を病んでいるのだとか。

 以前、信じていたレディにこっぴどく裏切られ、そのショックでレディに強い不信感を抱いているという。

 そんな公爵が姉を娶りたい、と申し出てきた。嫁に来てくれるのなら、ギャラガー男爵家の借金を融通してくれるばかりか、姉が彼の妻であり続けるかぎりは、ギャラガー男爵家の最低限の生活の保障をする。

 わたしたちにとって、彼の申し出は破格すぎた。

 その申し出を断る理由などなにもない。というよりかは断るという選択肢はない。
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