ある冬の君に。
第1話 君の日
「ねぇ、おとなになったら何になりたい?」
懐かしい夢だ。もう15年も前の事だと言うのに、あの頃の記憶は未だに鮮明に俺の中に残っている。その表情も、声も、仕草も。全部。
(またあの夢か。)
俺は身体をゆっくりと起こす。窓の外からは暖かな光が流れ込み、時計の針は午前6時半過ぎを指している。
トーストとコーヒーで朝食を済ませ、スーツに着替える。身支度を済ませ、少々余裕のあった俺はすぐ近くのカレンダーに目をやった。
「そうか、今日はお前の日だったな。」
12月25日 奏汰(かなた)
カレンダーにはそう書いている。毎年この日は彼のためにある。
俺にとってこの日は何よりも大切な日で、そして、いつよりも彼の事を強く想う日なのである。
定時で仕事を終わらせ会社の外に出ると、外はもう紅に染まり、カラスが鳴いている。
俺は自宅のすぐ側にある花屋に立ち寄った。
店に入ると他の花には目もくれず、たったひとつの花の前で立ち止まる。
ポインセチア
奏汰が一番好きだと言った花だった。
真っ赤な花弁の綺麗な花。俺もこの花がとても好きだった。
丁寧に包まれたポインセチアの花束を持って、俺は彼の元へ向かった。
彼のいる場所に着くと、彼のすぐそばでしゃがむ。目の前には鶴川奏汰(つるかわかなた)と書かれた墓石が立っている。
「今日で3年、か。」
俺、矢賀春海(やがはるみ)には恋人がいた。俺が生きてきた中で初めて恋心を抱いた人間だった。それがこの奏汰だったのだ。
奏汰とは幼い頃からの付き合いで、毎日生活を共にしていた。
子供の頃は一緒にいてもただ楽しいとしか思っていなかったが、その心境に変化が訪れたのは高校生の頃で、2年の片思いの末に俺と奏汰は親友から恋人になった。
人生でこれほどまでに幸せな時間は他にはないだろうと感じるほどに、それからの俺の毎日は鮮やかに色づいていた。
奏汰の存在は俺には不可欠なものだった。
これからもずっと一緒にこのまま続くものだと思っていた。けれど奏汰はその日、
「春海、俺を忘れて。」
その言葉を最後に、俺の世界から消えた。
懐かしい夢だ。もう15年も前の事だと言うのに、あの頃の記憶は未だに鮮明に俺の中に残っている。その表情も、声も、仕草も。全部。
(またあの夢か。)
俺は身体をゆっくりと起こす。窓の外からは暖かな光が流れ込み、時計の針は午前6時半過ぎを指している。
トーストとコーヒーで朝食を済ませ、スーツに着替える。身支度を済ませ、少々余裕のあった俺はすぐ近くのカレンダーに目をやった。
「そうか、今日はお前の日だったな。」
12月25日 奏汰(かなた)
カレンダーにはそう書いている。毎年この日は彼のためにある。
俺にとってこの日は何よりも大切な日で、そして、いつよりも彼の事を強く想う日なのである。
定時で仕事を終わらせ会社の外に出ると、外はもう紅に染まり、カラスが鳴いている。
俺は自宅のすぐ側にある花屋に立ち寄った。
店に入ると他の花には目もくれず、たったひとつの花の前で立ち止まる。
ポインセチア
奏汰が一番好きだと言った花だった。
真っ赤な花弁の綺麗な花。俺もこの花がとても好きだった。
丁寧に包まれたポインセチアの花束を持って、俺は彼の元へ向かった。
彼のいる場所に着くと、彼のすぐそばでしゃがむ。目の前には鶴川奏汰(つるかわかなた)と書かれた墓石が立っている。
「今日で3年、か。」
俺、矢賀春海(やがはるみ)には恋人がいた。俺が生きてきた中で初めて恋心を抱いた人間だった。それがこの奏汰だったのだ。
奏汰とは幼い頃からの付き合いで、毎日生活を共にしていた。
子供の頃は一緒にいてもただ楽しいとしか思っていなかったが、その心境に変化が訪れたのは高校生の頃で、2年の片思いの末に俺と奏汰は親友から恋人になった。
人生でこれほどまでに幸せな時間は他にはないだろうと感じるほどに、それからの俺の毎日は鮮やかに色づいていた。
奏汰の存在は俺には不可欠なものだった。
これからもずっと一緒にこのまま続くものだと思っていた。けれど奏汰はその日、
「春海、俺を忘れて。」
その言葉を最後に、俺の世界から消えた。