鬼上官と深夜のオフィス
――

週末ともなれば残業する人も殆ど無く、今となっては佐久間君と私の二人きり。残業開始から2時間後、ようやく作業は終了したのだった。

「先週に続いて今週も、残業対応ありがとうございました。」

ニコリと良くできましたとばかりに微笑む佐久間君。

先週……。
そうだ。先週の話題を出しておいて、なんで佐久間君は何事も無かったような顔をしているのだろう。

なんでこちらの気持ちをこんなに乱しておきながら、彼はあんな涼しい顔でいられるのだろう?

残業の疲れも相まって、思わず苛ついてしまった私はつい棘々しい口調で佐久間君の言葉に反応してしまうのだった。

「佐久間君、なんともない顔をして先週の話題なんかするけど、先週ここで、何があったか忘れちゃったの?」

……しまった。
感情の昂りのせいか、恨みがましい一言がつい口をついて出てしまった。
一瞬後悔の念がよぎるが、一度吐き出してしまった気持ちは止まらない。

「大体なんなの?!先週私に好きだなんて言っておいて、なんでなんともない顔してんの?!こっちなんてあれからずっと佐久間君のこと、意識しちゃってるっていうのにっ!」

思わずギャンギャンと噛みつくと、佐久間君は少し驚いたように目を丸くさせ、その後ちょっと照れくさそうにニヤリと笑うのだった。

「……先輩、俺のこと、意識してくれてたんですか?……じゃあもしかして、俺のこと、ちょっとは好きになっちゃいました?」

嬉しげな口調でそんなことを言われてしまうと、なんだか急に恥ずかしくなってきてしまう。

「ち、違う!そうじゃなくって……!!」

と、慌てて否定の言葉を口にすると、佐久間君は急に表情を変え目を怪しく光らせる。
コツリコツリと私の周りを歩き回ると、

「ふーん。……じゃあ先輩、もしかして、もう一度俺にこんなことされたかったんですか?」

私を背後からがばりと抱きしめ、耳元でそんな事を呟くのだった。
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