鬼上官と深夜のオフィス
藪をつついたらヘビどころか面倒くさい展開が待っていた。最後の最後に無駄な抵抗をして、完全に余計な一言を言ってしまった。
焦るこちらの気持ちを知ってか知らずか、佐久間君は甘く甘く蕩けるような視線を向けると、私の手を取りその指先にキスをする。

こちらの退路をことごとく潰してくる、頭が回るは流石デキる男。
ああ、どうしたら良いのだろう。
もう誰か、このすっかり恋愛脳になり果て壊れてしまった鬼上官をなんとかしてほしい。
……いや、でも、他の誰かに頼むのも、それはそれでなんだか嫌だ。
佐久間君が私以外の誰かのモノになってしまうのが何とも悔しくなるくらいには、不思議な事に今では私も佐久間君に執着してしまっているのだ。

この気持ちが佐久間君への恋情なのかどうかはまだわからない。けれど、誰かに奪われてしまうのも、また癪に障ってしまう。

うまく罠に嵌ってしまったような気がしてならないが、今日のところはこちらが折れてやろう。

そう思うと私は
「じゃ、会社以外の私については、そのうち。追々ね。」
と、言いながら彼の首筋に腕を回す。

そして佐久間君の綺麗な淡い栗色の瞳をじいっと見た後で、
「まったくズルい鬼上官なんだから」と呟くと、思いきりその唇を奪ってやるのだった。
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