さよなら、真夏のメランコリー
「あと一個乗れたらいい方だな」


時刻は夕方。
閉園時間まではまだもう少しあるけれど、そろそろ帰らなければいけない。


電車の時間やここから一時間ほどかかることを考えると、輝先輩の言う通り次が最後のアトラクションになりそうだ。


「なにが乗りたい?」

「もうほとんど乗ったよね」

「じゃあ、観覧車は?」

「観覧車、かぁ……」

「もしかして高所恐怖症?」

「違うけど……」


彼の提案にまごついたのは、密室でふたりきりになることに躊躇したから。


輝先輩の家で勉強した日、なんだか妙に落ち着かなくてドキドキした。
密室だったことや、彼の部屋にいたから……というのもあるかもしれないけれど、とにかく狭い空間でふたりきりになるとまた緊張する気がした。


「じゃあ、乗ろう。ちょうど夕日がいい感じだし」


戸惑いはあるのに、輝先輩に満面の笑みを向けられるとNOとは言えない。
すでに気まずさが芽生えそうなことには気づかないふりをして、小さく頷いた。

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