さよなら、真夏のメランコリー
* * *
「ここはちゃんと覚えておけよー! 来週の小テストでも出すぞ」
数学教師の声に、クラスメイトたちから不満が上がる。
ノートを取り終わった私は、ぼんやりと窓の向こうを眺めていた。
夏を目前にした季節は、じっとりとした空気を孕んでいて、なにもしていなくても蒸し暑さに気が滅入る。
もうすぐ一番好きだった季節がやってくる。
それなのに、私の心は去年の夏に置いてきぼりにされたように、宙ぶらりんのままだった。
卒業までぽっかりと予定が空いた放課後を思えば、また焦燥感が募る。
「みーなみ! カラオケ行かない?」
クラスメイトで親友の川崎真菜が、私の席の傍に来て笑った。
スマホをマイク代わりにしながら「新曲歌いたいんだよねー」とアピールし、前の椅子に座って私の机に頬杖をつく。
中学から仲良しの彼女は、いつもタイミングがいい。
私が落ち込み始める時をわかっているのかと思うほど、見計らうようにして明るく声をかけてくれる。
空いている予定が埋まりそうなのに、私は首を小さく横に振った。
「ごめん」と続けたあと、眉を下げて微かな笑みを零す。
「……今日こそ、退部届を出そうと思ってて」
「一緒に行こうか?」
すかさず訊いてくれた真菜は、私の様子を窺うようにしながら待っていた。
急かすこともない彼女からは、心配と同情が伝わってくる。