さよなら、真夏のメランコリー
「明日、クレープでも食べに行こうよ! 期間限定のデラックストロピカルアイスクレープが気になってるんだよねー!」

「なにそれ、めちゃくちゃ甘そう……。でも、私もクレープが食べたいかも」


その提案に頷けば、「約束だからね!」と弾んだ声で念押しされた。
私はもう一度首を縦に振ると、意を決して職員室に向かった。


一ヶ月後に夏休みを控えた校内は、いつにも増して蒸し暑い。
エアコンが効いている教室に反し、廊下はじっとりとした空気に包まれている。
ただ歩いているだけでも、肌が汗ばんでいった。


早くも夏休みの予定を話し合う声や、部活に向かうユニフォーム姿。
賑やかな声や慌ただしい音を聞きながら、私の足取りは鉛をつけられてしまったかのようにどんどん重くなっていく。


職員室が見えてくると、それはよりいっそうひどくなった。
心なしか、息も上手くできない。


頭がぼんやりと白んでいく感覚に、思わず足を止めた。
深呼吸を繰り返し、気休めにもならない『大丈夫』を心の中で唱える。


職員室のドアは開いていて、ここからでも室内の様子は確認できる。
顧問の古谷(ふるたに)先生の姿もしっかり見えた。


このまま引き返してしまいたくなった自分自身を奮い立たせるように、足にきゅっと力を込める。
直後、もう治ったはずの左足首に鈍い痛みが走った。

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