さよなら、真夏のメランコリー
「いっぱい食べろよ」

「これ一個で充分だけど」

「ダメダメ。今日はなにも気にせず食べろ」


その言葉の真意がわからずにいると、輝先輩がどこか寂しそうに目を細めた。


「選手時代ってさ、コーチとかから『飯はたくさん食え』って言われるのに、甘い物は制限されなかった?」

「あ、うん……」

「俺、あれが嫌だったんだよなー」


わりと甘党なのにさ、と彼が眉を寄せて笑う。


「ちょっとわかる。私も甘い物は好きだから、コンビニで新発売のスイーツを見るたびに食べたくなったもん」

「だから、今日は気にせず食べるんだ」


輝先輩にはなにか意図があったのかもしれないし、別にそんなものはなかったのかもしれない。
ただ、昨日のお詫びを兼ねた行為だっただけかもしれない。


それでも、彼の言動は少しだけ嬉しかった。


輝先輩とは、お互いに似たような環境にいるせいで共感できるからか、彼が纏う雰囲気が優しく思えるからか……。

「いただきます」

理由はどうであれ、口に運んだバスクチーズケーキの味に自然と頬が綻んでいた。


「テスト勉強はしてる?」

「……嫌なことを思い出させるね」

「俺、先輩だもん。可愛い後輩が心配なんだよ」


うそっぽい言い訳に、眉を寄せてしまう。

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