さよなら、真夏のメランコリー
「その点、家庭教師なら家まで来てくれるし、一対一だから質問もしやすいんだ。あと、可愛い女子大生が先生だったらやる気倍増するし」


満面の笑みを向けられて、胸の奥がモヤッとした。


「動機が不純ですね……」

「なんで敬語だよ」

「別に深い意味はないですけど」

「言っとくけど、先生は男だからな」


その言葉で、モヤモヤしていたものが消えていく。


「てっきり真面目な堅物みたいな奴が来るのかと思ったら、わりとイケメンの陽キャな大学生。でも、頭はいいし、おしゃれだし、授業もわかりやすい」


家庭教師が男子大学生だと知り、自然と安堵している私がいた。


その理由はわからないけれど、なんとなく輝先輩にはバレたくなくて、それを隠すようにバスクチーズケーキを頬張る。
油断すれば笑みが零れてしまいそうで、必死に咀嚼してごまかした。


「あ、全部食った? 次はどれにする?」


当たり前のように優しい笑顔を寄越されて、今度は心がむずがゆくなる。
彼とは別に友達でもないのに、この慣れない時間がなぜか嫌じゃなかった。

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