さよなら、真夏のメランコリー
「テストは手応えあった?」

「世界史と英語以外は……」

「俺は数学がやばいんだよな。まぁ、今さら後悔しても仕方ないんだけど」


なにげない会話が、嫌な気持ちを少しだけ忘れさせてくれる。


「お互い、夏休みの補習は免れたらいいな」

「うん」


たとえば補習になったとしても、夏休みの予定がない私は別に困らない。
嫌ではあるものの、予定ができるだけマシかもしれない。


だけど、補習を受けに来れば、部活をしている生徒たちを目の当たりにすることになる。
それだけは嫌だった。


私の場合、プールに行かなければ水泳部員たちと鉢合わせる可能性は低いのかもしれない。
それでも、万が一にでも顔を合わせれば泣きたくなるに違いない。


走り込みをしている姿や、プール上がりの濡れた髪を見れば、おのずと自分が選手だった時の光景と被るだろう。
そんな光景を見る勇気は、まだ持てなかった。


「夏休みはどこか行くのか? 旅行とか帰省とか」

「ううん。両親は共働きで忙しいから旅行なんて行く暇はないし、ふたりとも東京(とうきょう)出身だから。友達と遊ぶくらいかな」


真菜と会うのは、せいぜい週に一回くらいだろう。
父親の実家が大阪(おおさか)、母親の実家が埼玉(さいたま)だと言っていた彼女は、毎年両方の祖父母の家に遊びに行っている。


少なくとも、お盆を含めた十日ほどは会うことがない。
その間、どうして過ごせばいいのかと思うだけで、気が滅入った。

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