さよなら、真夏のメランコリー
「夏休みも練習漬けで、練習が嫌になることもあったのに……。もうできないと思うと寂しくてたまらない。何回も逃げ出したくなったのに、変だよね……」


眉を下げる私に、輝先輩が首を振った。


「そんなことない。俺も同じだったよ」

「本当に?」


縋るような気持ちになると、彼は大きく頷いた。


「うん……。練習漬けだった日々は逃げ出したいと思ったことが何度もあったのに、試合どころか練習すらできなくなると、空いた時間をどう過ごしていいのかわからなくて気持ちのやり場がなかった……」

「そっか……。こういう気持ち、いつかはなくなるのかな……」


ぽつりと呟いてみたけれど、輝先輩は困ったように笑うだけ。
だけど、なにも答えてもらえなくても嫌じゃなかった。


彼もまだ苦しみの中にいるんだ、と思わせてくれたから。
それがほんの少しだけ安心できた。


「夏休みなんて来なくていいのかも……」


いつだって待ち遠しかった夏休みを、生まれて初めて楽しみだと思えない。


真菜と遊ぶ約束をしていても、心はずっと鈍色のまま。
彼女と会えない空白の日が怖くて、夏休みが始まることに不安すら抱いている。


「じゃあ、俺と遊ぶ?」


そんな私にかけられたのは、予想もしていなかった言葉だった。


「え?」

「夏休みって、今までは練習漬けだっただろ?」

「うん……」

「だから、今までできなかったことをふたりでやるんだ」

「で、でも……」

「俺は美波と遊びたい。夏休みも会いたいよ」


ストレートな言葉が、私の心を優しくくすぐる。

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