さよなら、真夏のメランコリー
「まぁ、バイトとか受験勉強があるから、ずっとってわけにはいかないけど」


苦笑を零す輝先輩を前に、断り文句なんて思い浮かばなかった。


「……なにするの?」

「買い食いとか、食べ歩きとか?」

「食べることばっかりだね」

「遊園地でも水族館でもいいし、海に行くのもいいな。でも、遊んでばっかりなのはやばいから、たまには一緒に課題でもするか」


誘い文句は、特別なものじゃない。
それでも、私にとっては特別に思えた。


「うん」

「あ、あとは祭りとか花火大会だな」

「いいね、夏って感じ」


ここから程近い場所で開催されるお祭りも花火大会も、行ったことがなかった。
中学まではスイミングスクールの合宿の時期と被っていたし、高校に入ってからはインターハイ前でコーチの許可が下りなかった。


今思えば厳しいルールだったけれど、当時はそれが当たり前だった。
部員の中にはこっそり遊びに行っていた子がいるのも知っている。


だけど、私はその気の緩みがけがや事故に繋がらないかと不安で、どうしてもルールを破れなかった。
家の中にいても聞こえる花火の音に物寂しくなっても、インターハイ優勝という目標だけを心の支えにして、なにもかも我慢してきた。


「俺、去年と一昨年は祭りも花火も行かなかったんだよな」

「私も」


夏にも共通点があったことに、どちらからともなく笑ってしまう。


予定のない日の過ごし方がわからなかった。
空白だらけの夏休みが来るのが怖かった。


それなのに、今は少しだけ楽しみに思える私がいた。

< 72 / 194 >

この作品をシェア

pagetop