さよなら、真夏のメランコリー
私も同じだった。
選手だった時には、大学進学も水泳を基準に選ぶつもりだった。


なんなら、輝先輩のように推薦をもらえるだろうとすら考えていた。
やっぱり、彼とはこんなところも似ている。


「ほら、やるぞ。美波は俺よりやばいんだから、ちゃんと集中しろよ?」

「わかってるよ」


ふっと緩められた瞳に、胸の奥がムズムズする。
なんだかむずがゆいような、身の置き場がないような……。不思議な感覚だった。


そんな私を余所に、輝先輩は課題に取りかかっていた。
プリントにシャーペンを走らせる目は真剣で、普段の彼とは全然違う。


だけど、陸上選手として走っていた時の輝先輩を彷彿とさせた。


私は、彼が走っている姿を何度か見たことがある。
真剣な双眸で真っ直ぐ前を見据え、腕を大きく振って、全力で歯を食いしばってどこか苦しそうなのに、ゴールに向かって走り抜く姿はまるで風のようだと思った。


あの時の目を思い出し、なんだか切なくなる。
それなのに、また真剣な表情を見られたことが少しだけ嬉しかった。


「美波? 手が止まってる。もうわからない?」

「今からやるの!」


不意に声をかけられて、心臓がドキッと高鳴った。
なにもやましいことはないのに、なんだかドキドキしてしまう。


輝先輩は苦笑すると、またプリントに視線を落とした。
彼の表情をもっと見ていたい気もするけれど、私もシャーペンを手に取った。

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