さよなら、真夏のメランコリー
三章 夏の匂い

一 知らなかった夏休みの幸せ

お盆に入ると、真菜は大阪に行ってしまった。
それまでバイトはもちろん、課題や遊ぶために会っていた彼女との予定はしばらくない。


きっと、本当なら寂しかったに違いない。
だけど、今はそんな心配はなかった。


スケジュールアプリの八月の予定は、パンパンに詰まっている。
まずは、バイトと家族で出掛ける予定。


それから、輝先輩と約束している日。
真菜と遊ぶ日を含めると、もうほとんど空いている日はない。


お盆期間はバイト三昧で、丸一日休みなのは今日だけだった。
菜々緒さんには『せっかくの夏休みなのにそれでいいの?』と笑われた。


ただ、家族で出掛ける高校生やパートさん、帰省する大学生たちがいて人手が足りないから、店長には感謝されている。
私も、暇を持て余さずに済んでお金も稼げていいこと尽くめだ。


もっとも、バイト代が入るのはまだ少し先だし、夏休みの軍資金にはならないのだけれど……。


「美波、遅いぞー」

「ごめん! 駅に着く直前に、家にスマホを忘れたことに気づいて……!」

「ドジだなー」


ムッとして思わず頬を膨らませると、輝先輩がククッと笑う。


「美波、顔が真ん丸だぞ」

「うるさい」

「おっ、遅刻したくせに偉そうだな」

「うっ……ごめんなさい……。なにか奢ります……」

「素直でよろしい。じゃあ、行くか」


明るい笑顔の彼につられるように、私も自然と笑みを零していた。

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