さよなら、真夏のメランコリー
「あ、先輩。チケット代払う」

「いいよ」

「えっ?」

「今日は特別。チケット代だけ奢ってやるよ」

「でも……」


入園料は二千円だけれど、輝先輩はフリーパス付きのものを買ってくれていた。
合わせると、五千円ほどになったはず。
コンビニスイーツを奢ってもらった時のように甘えるわけにはいかない。


「遊園地はさすがに高いからいいよ! 私も一応バイトしてるし」

「まだたいしてバイト代入ってないだろ」

「それはそう、だけど……」


七月分のバイト代はもらったけれど、微々たるものだった。
もっと言えば、今は研修期間中だ。
八月分のバイト代だって、シフトのわりには多くはないに違いない。


「だから、今日は俺の奢り。その代わり、美波のバイト代が入ったらなんか奢って」


戸惑う私に、彼が「行くぞ」と笑う。


「早く並ばないと時間がもったいないって。アトラクション全制覇するんだろ?」


ニッと口角を上げた輝先輩は、私の心を操るのが上手い気がする。


「する!」

「はい。じゃあ、行くぞ。こんなところで悩んでる時間なんてないからな」


頷きながら、つい笑ってしまっていた。

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