彼の素顔は甘くて危険すぎる
「まだあるから、ご飯食べたらね?」
「え、まだあんの?」
「うん」
あ、チョコか。
食事の前にさすがにチョコは……。
すっかり日が暮れて、彼女はスープを温め直し始めた。
17回目の誕生日。
いつもは誕生日といっても、両親と外食して終わりだったから、こんな風にもてなされたことがない。
ひまりは照れながらも、ハッピーバースデーの歌を唄ってくれた。
これもある意味、新鮮だ。
ケーキはフルーツタルトになっていて、生クリームが苦手な俺のことを配慮してくれたものらしい。
こういう気遣いは本当に完璧すぎる。
ちょっと早めに夕食を済ませ、リビングでのんびりと寛いでいると。
俺所望のチョコを手渡された。
よくあるトリュフではなく、なんか色んな色がある。
彼女曰く、飽きるだろうからと味を変えてあるらしい。
それと……。
「手、貸して?」
「……何すんの?」
「最後のプレゼント」
「……最後?」
「うん」
俺の左手を取り、何やら左手小指の爪に描き始めた。
あ、……白龍みたいだ。
物凄い極細の筆と楊枝を使って描いてる。
すげぇ。
こんな小さい絵なのに白龍だって分かるし。
それだけ特徴掴んでるってことなんだろうけど。
描き終えた彼女はフゥ~と息をかけて乾かし始めた。
そして、その筆で自分の左手小指の爪にも同じ絵を描いてる。
「これで、お揃いだよ♪」
乾かし終わった指を照れながら見せる彼女。
左手小指は弦を押さえるだけだから、剥げることは無い。
それと対になる感じで、彼女の小指にも同じ絵柄が描かれている。
まるで、赤い糸で結ばれてるみたいに。