彼の素顔は甘くて危険すぎる
(不破視点)
深夜遅くまで新曲のレコーディングをしていた不破。
寝不足状態で球技大会の練習を日差しの強い校庭で行ったことで眩暈と貧血状態を起こしていた。
授業を終え、教室へと戻る足取りが拙く、壁伝いに歩かないと今にも倒れそうで。
ここ数日毎日のようにレコーディングと編曲作業に追われ、完全に不規則な生活が仇になったようだ。
「不破くん、……大丈夫?」
あっ、ヘルパーさんだ。
転校初日から俺のお世話係に任命されたおかげで、何かと世話をしてくれる唯一の味方。
メジャーデビューするために日本に来たが、正直高校生活を楽しもうとは考えていない。
元々顔を伏せるという条件で契約しているのもあって、誰かに知られるリスクを負うくらいなら、卒業までの間は友人も作らないと決めていた。
橘ひまり、学級委員長。
彼女は誰もやりたがらないクラス委員を嫌な顔一つせずにこなしている。
最初は目立ちたがり屋なのかと思っていたが、本当はただ単にお人好しなのだと気付いた。
毎朝少し早めに登校し、教室の空気を入れ替え、冷房のスイッチを入れたり。
提出物や配布物も殆ど彼女一人で行われている。
それだけじゃない。
施錠が必要な特別教室や倉庫の鍵の開閉も一人で行い、俺の知る限り、殆ど彼女でこのクラスの均衡が保たれているということ。
そして、こうして体調の悪い生徒を進んで保健室へと連れて行くことも。
「運動性貧血と低血圧からくる眩暈と吐気だから、安静にしてればよくなるわ。気分が優れるようになるまで横になってて」
「………」
「お大事にね。担任には話しておくから」
「………」
橘は養護教諭に会釈し教室へと戻って行った。