彼の素顔は甘くて危険すぎる
公式サイトのプレミアム会員になったひまりは、『SëI』情報を得ようと検索してみる。
すると、年齢、生年月日、血液型など、全ての情報が非公開となっている。
本当に謎に包まれた人物のようだ。
毎日見て、時に触れて、会話もしてるあの人が。
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3月上旬、日曜日の昼過ぎ。
少しずつ春らしい陽気になって来て、窓辺に座ると心地よい日差しに包まれる。
不破の自宅で美術展に出すための下絵を幾つか描いていると、不破がひまりの隣にやって来た。
「ひまり」
「……ん?」
「欲しいもん、ある?」
「何、……突然」
描く手を止めずに声だけ不破に向けると、そんなひまりの顔を不破は覗き込むように。
「俺の話、ちゃんと聞いて」
「……ごめんね、何?」
「だから、欲しいもんあんのか?って」
「特には無いけど?」
「もうすぐホワイトデーだから、ちゃんとお返ししたいんだけど、何がいい?欲しいもん言って?」
「………ホワイトデー」
不破が言うホワイトデーとは全くの別物で、ひまりの脳内はプレミアムサイン入りCDが思い浮かんだ。
「何なに、欲しいもん思い出した?」
「あ、……ううん、違くて……」
考え込んでるように見えたらしい。
当たってたらいいなぁと思っただけで。
別に他に欲しいものはないんだけど。
「誕生日でもないし、気にしなくていいよ?」
「そういうわけにはいかねぇよ」
「うーん、……と言われても」
急には思い浮かばない。
センター試験の好成績。
美大の合格通知。
二科展や日美展の入賞。
お小遣いの大幅アップ。
それ以外に思い浮かぶものがない。