彼の素顔は甘くて危険すぎる

翌日の3月14日の9時過ぎ。
宅配業者待ちの私は、時間を有効に使うために小児科の待合室で子供たちの相手をする臨時バイトをしている。

年末年始の混み具合に比べればだいぶ減ったと思うが、それでも早朝から受付待ちをする保護者もちらほら。
両親がコメンテーターとしてテレビに出るようになり、その効果もあって隣県からくる患者も多い。
土曜日ということもあり、待合室には母親でなく父親の姿が多いのも特徴の一つだ。

「おねえちゃん、これ読んで~」
「いいよ」

子供の調子が悪くなると、両親はその子を看病し、体調を崩さなくとも体力的に限界の人も多く。
診察待ちが長ければ長いほど、親への負担は大きい。

親御さんが感謝のために頭を下げる。
それを笑顔で返し、子供の要望に応えるのが私のバイトの内容だ。

「この絵本読むから、聞きたい子おいで~」

待合室の一角に設けられたそこは、足の不自由な子供でも気軽に遊べるように床暖仕様になっている。
しかも、子供を見守れるようにその一角は収納椅子で囲われ、その椅子の側面部分(親の足下部分)が本棚になっている。
一面の壁部分に紙芝居やペープサートが収納されており、玩具はその横に沢山置かれている仕様だ。

咳き込む子もいるため、間隔を取って座らせる。
そして、子供たちの視線が集まったのを感じ取ったら、絵本の読み聞かせのスタートだ。

「はじまるよ、はじまるよ、たのしいえほんのじかんが、は~じまるよ~♪」

開始を知らせる歌。
紙芝居でもペープサートでも同様に、子供の気を引くための声掛けだ。
ただ単に読めばいいものではないらしい。
母親から教わったコツでもある。

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