彼の素顔は甘くて危険すぎる

(ひまり視点)

放課後の教室。
隣りの席に目をやり、どうしたものかと悩みあぐねる。
結局、不破くんは戻って来なかった。

「橘、悪いが不破の荷物を保健室に届けてくれるか?帰るのが無理そうならご家族に連絡するから職員室に声かけてくれ」
「……はい、分かりました」

隣りの席の机の中から教科書や筆箱などを取り出し、鞄の中に入れる。
他人の荷物を勝手に開けるのは少々気が引けるけど、こういう時は致し方ない。
手早く荷物を纏めて、自分の荷物を手にし保健室へと向かう。

保健室に行くと、『職員会議の為不在です。御用の方は職員室まで』と記されたプレートが掛けられていた。
普段ならこういう時、大抵鍵は閉まってるのだが、中に不破くんがいるからなのか、今日は開いている。

「失礼しま~す」

一応、形だけの挨拶をして静かに中に入ると、一つだけカーテンがしてあるベッドがあった。
不破くんはそこにいるらしい。
まだ寝てるのかな?と思い、静かにベッドに近づく。
そっとカーテンの継ぎ目から中の様子を窺うと、額に腕を乗せた彼がいた。

「あ、眼鏡かけてない」

腕で顔が隠されていてよく分からないけど、常時着けてるマスクも無くて、シャープな顎のラインが目についた。
規律のいい寝息を立てて寝ているところをみると、相当不調だったのかもしれない。

「起きるまで待ってようかな。……どうせ暇だしね」

カーテンを閉め、処置用の机に荷物を置いて、その机でスケッチを始めた。
最近、暇さえあればあの時の王子様を描いている。
今一番の幸せタイムなんだもん。

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