彼の素顔は甘くて危険すぎる

院内通路を横切り、自宅部分へと急ぐ。

ピンポーンッというチャイムの音と共に玄関ドアを開けた。

「あっ、……宅配です」

待ってましたと言わんばかりにドアを勢いよく開けたものだから、いつものお兄さんが驚いている。

「ありがとうございますっ!」
「ここに印鑑を」
「はーい」

受領証に印鑑を押して荷物を受け取ると、『ありがとうございました~』と笑顔でドアを閉めたお兄さん。
すぐさま玄関ドアを施錠して、その場で箱を開ける。

購入したCDは5枚。
と言っても、自分でお金を出したのは1枚だけ。
残りの4枚は父親が支払ってくれた。
今日のバイト代として。

かなりの高額なんだけど、絵以外で珍しく騒ぐ私の応援をしたいらしい。
父親は私のファン第一号で、私の受賞作品を飾るというのも父が提案したもの。
父親ならよくある、目に入れても痛くないというやつらしい。

とはいえ、父は母に首ったけで、元々産婦人科医として専攻していたのを母と知り合い、小児科医に転向したくらいだから。

うちの病院は母の家系が跡を継いでいて、父親は婿養子。
母は三姉妹の長女、父は三兄弟の三男。
なるべくしてなったといっていい関係らしい。

芯が強い母に一目ぼれした父が猛アタックして交際がスタートし、今に至っても母にメロメロだ。
年末年始やGW、お盆の期間も通常診療し、休みは前後にずらすスタンスもこの病院の古くからの診療スタイルらしく。
文句一つ言わずにそれを受け入れたそうだ。

そのずらした休みに毎年家族旅行をしているが、私の目から見ても『デート』にしか思えないほどラブラブだ。

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