彼の素顔は甘くて危険すぎる
外装を開けて、中からフィルムに包まれたCDを手にする。
フィルムが付いているということは、外れた証。
直筆サインがされているなら、フィルムは剥がされているはずだから。
5枚あるCD全てがフィルムに包まれていた。
私は当選出来なかったらしい。
この一カ月弱、楽しみにしていた時間が終わりを告げた。
その場に崩れ落ちる。
膝から力を失くして、へたり込んでしまった。
2月14日発売の『Caramel』は初回出荷40万枚だった。
それを考えても、40万分の10枚。
恐ろしい確率だ。
美大に現役合格するより難しそう。
だから、当たらなくても仕方ない。
仕方ない、………んだけど。
自分の中で、勝手に思い込んでた節がある。
みんなが知らない『SëI』を知っているというだけで、あたかも当たるのではないかという錯覚が。
分かってる。
プレミアムサインを手に入れるのは奇跡だって。
その奇跡が、何故か手に入ると思ってしまっていた。
自室に上がり、出掛ける準備をする。
不破くんの自宅に行くために。
『SëI』本人に会うために。
本人に会えるというのに、気持ちが浮上しない。
会えるだけでも十分恵まれているというのに。
ううん、正体を知っている時点で奇跡だというのに。
この奇跡を、すっかり当たり前に思ってしまっていた。
しかも、その彼が自分の彼氏なのだという奇跡の奇跡だというのに。
鏡に映る自分を見ると、完全に気落ちしている顔だ。
これでは彼が心配してしまう。
ピーチオレンジのグロスを乗せ、笑顔を作る。
うん、大丈夫。
彼にぎゅーして貰おう。
嫌なことは忘れなくちゃ……。