彼の素顔は甘くて危険すぎる

(不破視点)

ひまりの訪問を知らせるチャイムが鳴った。
急いで玄関ドアを開けると、そこにいたのは大きな瞳から涙を溢す彼女が。

ミント色のふんわりしたニットに白いショートパンツを合わせたいで立ちで、春めいた陽気の今日なら別におかしくない装いだけど。
男目線で考えたら、ちょっと肌の露出が多い気がする。

ひまりはあまりスカートを穿かない。
その代わりに、寒くてもショートパンツやキュロット仕様が多くて、スカートより露出部分が多い分、出掛ける時は周りの男の視線が気になってしまう。
本人は全くもって見られているとは思いもしてないだろうけど。

「いらっしゃ……どしたッ?!何で泣いてんの?……誰かに変なことされたのか?」
「………」
「ひまッんっ……」

突然、抱きついて来た。
彼女から抱きつくとか、奇跡に近い。
俺が『ぎゅーして』と言っても抵抗する子なのに。

ますます色濃くなる。
電車内で痴漢にでも遭ったんじゃないかと。

「とりあえず、入って」

彼女の背中を優しくトントンと宥めて、部屋の中へと連れて行く。
彼女の手を掴むと、ぎゅっと握り返して来た。
何があったのか知らないが、マジで気が狂いそうになる。

ソファーに座らせ、彼女のために温かい飲み物でも淹れるためキッチンへ向かおうとした、その時。
俺のTシャツを掴んだ彼女。
立ち上がった俺を無言で見上げている。

誰だよっ!
ひまりにこんな想いをさせた野郎はッ!!

「ココア?カフェオレ?」
「……ココ、ア」
「ん、ちょっと待ってろ」

今日初めて聞いた声は、か細くて悲しそうなそんな声だった。

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