彼の素顔は甘くて危険すぎる

ひまりの手にホットココアが入ったカップを持たせると、潤んだ瞳で見つめられる。
そういう視線は危険だって。
男を欲情させるって分かってるかな。
いや、きっと分かってない。
無意識にしてるに決まってる。

隣りに腰を下ろして、優しく髪を撫でる。
最近、学校以外の時は髪を下ろすようになった。
それでも、絵を描く時は纏め上げるが、その緩く纏め上げられた感じも結構好き。

ってか、ひまりのことなら何でも好きなんだけど。

何があったのか聞きたいが、それを聞き出すのは酷かもしれない。
嫌な思いを思い出せてしまうから。

「ちょっと待ってて」

彼女の頭を優しくポンポンとし、自室へと向かう。
自宅は両親の寝室、親の書斎、ゲストルーム、俺の部屋、そしてブースとLDK。
高層マンションの高層階で広めな造りの間取りは、かなり裕福な方だと思う。

南側に面した自室は日当たりがよく、周りに高い建物が無い分、見晴らしが良い。

気落ちしている彼女の気を逸らす為に話題を変えないと。

自室からプレゼントを手にしてリビングに戻る。
彼女は湯気の立ったカップにフゥ~と息をかけている。

「ん」
「……えっ?!……これって、プレミアムサイン入りCD?!」
「プレミアムかどうかは別として、直筆サイン入りCDってやつ」
「当たらなかったのに……」
「え?」
「5枚分応募したけど外れたの」
「はっ、……わざわざ買ったの?」
「……うん」

俺の曲なんて興味ないと思ってた。
欲しいと言われたこともなければ、口ずさんでるところをみたことすらない。
そんな彼女が、わざわざ買ってまで応募してただなんて。

俺に言ってくれれば幾らだってあげるし、サインするのに。

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