彼の素顔は甘くて危険すぎる
「ひまりに会えないと死ぬ」
「なっ、……大げさな」
「クラスが違うだけでも腹立つのに、校舎まで違うってありえねぇ」
「こうして放課後に会えるじゃない」
「足りない」
「っ……」
ぎゅっときつく抱き締めれるだけで、ひまりは自分のことを大事に想ってくれていると感じられる。
最近、ますますエスカレートする不破の愛情表現。
甘いセリフはもちろんのこと、こんな風にボディータッチも多めになり、ひまりの心臓は日に日に余裕がなくなって来ている。
「週末婚する?」
「へ?」
「日中会えない分を埋めないと」
「……どこかで頭打ったとか?」
「ひまりは大丈夫なのか?俺がいなくて」
「いるじゃない、……ここに」
会話が噛み合わない。
まるで1分1秒でも多く一緒にいないと死んでしまうと言われてるようで。
嬉しい反面、ほんの少し不安にもなる。
この向けられてる感情が、いつか別の人に向いてしまうのではないかと。
甘いセリフも優しい眼差しも心が満たされるほど幸せに感じるが、それと紙一重でこの幸せがいつまで続くのかという不安。
その不安が常に付き纏っていて、恋に奥手のひまりは今一つ素直になれずにいた。
エレベーターが停止し、不破に手を取られ歩を進める。
その握られる手をじっと見つめ、繋がれている間だけでも満喫しようと心に決めた。
暗証番号を入力する不破。
握られてる方の手をぎゅっと握り返すと、驚いた表情を一瞬覗かせ、優しい笑みを向け握り返して来た。
『大好きだよ』と、手を通して伝わるように。