彼の素顔は甘くて危険すぎる

(不破視点)

数日ぶりに熟睡した俺は、鉛のように重い体を起こしベッドから出ると、保健室の一角にヘルパーさんの姿を発見。
その彼女のすぐ脇に自分の荷物が置かれているところを見ると、彼女が持って来てくれたようだ。
さすが、ヘルパーさん。
痒い所に手が届く。

眼鏡とマスクを装備し彼女に近づくと、腕の下に何かが見える。
何かの配布物なのかと思い、それをそっと抜き取ると……。

「え……」

手にした紙には、半月ほど前にナンパ男から彼女を助けた時の自分が描かれていた。

「……すげぇ」

あの日着ていた服や髪形、着けていたピアスのデザイン。
背負っていたギターケースの特徴もしっかり描けていて。
ナンパ男二人組の服装や表情、髪形や背格好まで完璧。

それだけじゃない。
あの日とは完全に別で、俺がギターを弾く様子や譜面に記している様子、更にはギターをチューニングしている様子まで描かれている。
その絵は、今にも紙から飛び出して来そうなほどリアルで。
鉛筆一色のはずなのに、明暗がしっかり描かれているからなのか、色がついているように感じるほど。

「絵の才能があったんだ」

俺に音楽があるように、こいつには絵の才能があるらしい。

人前で滅多に笑ったりしない俺が、絵の中では優しく微笑んでる。
自分でも殆ど見ない表情なのに、この目の前にいるこいつは、こんなにも簡単に……。

鉛筆で汚れた手で顔を触ったのか。
頬に鉛筆汚れが付いてるのを見て、思わず笑みが零れた。
高校生にもなって、顔を鉛筆で汚す奴、初めて見た。

「んっ……」

無意識にそれを指先で拭ってたようで、彼女が目覚めたらしい。
汚れてる手で更に顔を擦ってる。


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