彼の素顔は甘くて危険すぎる
思い当たることが多すぎて、正直反省以外の何物でもないんだけど。
それでも、別れることだけは絶対に受け入れがたい。
「……住む世界が違い過ぎて疲れた」
「………」
「不破くんには、もっと相応しい人がいると思うから。……ごめんね」
「ひまり」
「もう、電話もメールもしないから、曲作りに専念してね。1人のファンとして応援させて貰います。お休みなさい」
「え、ひまりっ」
俺の話も聞かずに、彼女は電話を切った。
すぐさまかけ返したけれど、電源をオフにしたようで繋がらない。
何が起こったのか、分からない。
頭の中が真っ白で。
彼女が言った『別れたいの』という言葉が何度もリフレインして。
自分が取って来た行動を思い返して、『後悔』という言葉に押し潰されそうになる。
もっと彼女を大事にすべきだった。
もっと彼女の考えを聞くべきだった。
もっと、もっと、もっと……。
悔やんでも悔やみきれない。
いつから彼女は別れようと考え始めたのだろうか?
制作に専念する為に暫く会えないというのも、別れるための口実だったのかもしれない。
俺の気持ちの整理を図るための猶予として。
けれど、例えそれが1年であったとしても受け入れらないと思う。
1年だろうが、2年だろうが、彼女がひまりなら待つつもりだから。
彼女が家に残して行った品の数々を眺める。
いつも黙って俺を見つめてくれていた。
その視線に、瞳にどれほど心を揺さぶられたことか。
彼女の口から『別れたいの』だなんて、正直現実味が無くて。
脳内が軽く夢だと上書きしそうになる。
明日、学校に行ったら直接本人に聞いてみよう。
それしかない。