彼の素顔は甘くて危険すぎる
足音立てずにドアの陰に隠れて、二人の会話を盗み聞きする。
だって俺と別れたからといって、すぐに新しい彼氏を作るような子じゃない。
それに、昨日の彼女の指には指輪がまだ嵌められていたのだから。
気配を殺して様子を窺っていると。
「GWは何する予定?」
「美術展の作品制作」
「どこかに出かけたりしないの?」
「家から出たくない」
「アイツと、……遊ぶ約束でもした?」
「もう別れたって言ったでしょ」
「嘘吐いてるかもしれないじゃん」
「成瀬くんみたいな卑怯な手は使わないから」
「へぇ~」
何だ、あの会話。
俺が知る、愛らしいひまりじゃない。
抑揚のない声で、相手を軽くあしらいながら牽制してるような。
それでいて、必死に感情を押し殺してるような。
初めて見るひまりの態度に違和感しか感じなかった。
すぐさまスマホで動画撮影を開始し、二人の様子を盗撮する。
「アイツの何がいいの?俺も結構イケメンの部類だと思うけど?」
「彼のことは話さない約束でしょ」
「だって、顔に書いてあるじゃん。……忘れられないって」
「っ……」
「俺に隠れて連絡とか取ってんじゃないの?」
「さっきの昼休みだって確認したでしょ?!履歴にもアドレスにも無いことっ」
これって、完全に脅されてんじゃん。
俺との通話やLINEの記録も消去して、連絡先まで消さないといけないほど、彼女は追い詰められていたということか。
昨夜の様子から、漸く理解出来た。
別れたくて別れを言い出したんじゃないんだと。
そして、ひまりの彼氏が俺だと、完全に知ってる上での言動なのだと。