彼の素顔は甘くて危険すぎる
ひまりはスケッチブックのようなものを広げて、何かを描き始めた。
彼女が描くのだから、『絵』に決まってるんだけど。
奴がひまりに描かせる理由が分からない。
ひまりが描きたいと言うわけないし。
「二週間たったけど全然納得のいく仕上がりになってないしさ、やっぱ俺と付き合わない?そしたら、全部チャラにしてやるよ」
「………丁重にお断りします」
「何で?……俺、優しいよ?」
「脅すような人が優しいとは思えない」
「俺の彼女になったら、優しいって意味だよ」
「それでも、お断りします」
「別れた彼氏のことなんて放っておけばいいのに、まだ好きなんだ」
「成瀬くんには関係ない」
「アイツが有名人なのは認めるけど、俺だって結構有名人だよ?俺じゃダメなの?」
「有名人だから付き合ったわけじゃない」
「へぇ~」
なるほどな。
俺の正体を知って脅したというわけか。
だから、ひまりは俺との距離を取って、それでも脅されて別れを選んだと。
納得がいかねぇ。
理不尽すぎんだろ。
言い寄るにもやり方が汚すぎる。
5分ほどが経過した、次の瞬間、奴がひまりの元へと歩き出した。
奴との距離を取っていたひまりだが、視線を手元に落として集中していて、気が付いた時にはすぐ目の前に。
「なっ……に?」
「もっと近くで見た方がいいんじゃないかと」
「別にっ、視力は良いから遠くでもちゃんと分かるからっ、……こっち来ないでッ!」
「いや、描けるか描けないかの話じゃなくて。俺のことをもっと近くで知った方がいいんじゃないの?」
「んッ?!」
椅子に座っていたひまりは逃げるように立ち上がり、そんな彼女を壁へと追い込み、俺の視線の先で彼女を壁に押し付けた。
しかも、無理やりキスしそうな勢いで、それをひまりは必死に抵抗してかわした。