彼の素顔は甘くて危険すぎる

朝方まで絵を描いていたというから、まだ寝足りないのだろう。
瞼を開ける気配がない。
完全に夢の中の世界だと思い込んでるようだ。

俺の手をスリスリと頬ずりし、満足そうな顔をしているが、俺はこれくらいじゃ満足できない。
この半月、ずっと我慢してたんだから。

握られて無い方の手で、俺を悩殺してる脚を撫でると。
くすぐったいのか体をくねらせた。
笑い声が出るのを必死に堪え、彼女に覆いかぶさるように手を着く。

そして、彼女の耳元にわざと甘~い声音で囁く。

「ちゅーしてもいい?」

さて、何て答えるだろうか?
じっと彼女の表情を窺っていると、僅かに眉間と眉毛がピクピクっと動いた。
おっ?起きるか?

そのまま身動きせずに見守っていると、再び柔らかな表情に。

「いいよ」
「え、いいの?ホントにちゅーしちゃうよ?」
「……ん」

フフフッ。
夢の中でキス待ちって。
あーもうっ、手に負えないくらい可愛すぎっ。

声を殺して笑みが零れる。
破顔?当たり前だっつーの。

『別れたい』って言い出した本人が俺からのキスを待ってるとか。
マジで、どうしてくれよう、この子を。

緩みっぱなしの顔を近づけ、呼吸を整える。
そうでもしなきゃ、めちゃくちゃにしてしまいそうだ。
あまりに無謀で愛らしくて。

優しく唇を重ねた。
ぷっくりと膨らんだ小さなそれは、3週間ぶりの高ぶる感情を収めるにはあまりにも小さくて。
啄むだけじゃ物足りなくて、ついつい後ろ首に手を添えて、もっともっとと求めて……。
甘噛みして舌を絡め取ると、僅かな吐息が漏れ出した、次の瞬間。

彼女の瞼がパッと見開き、硬直した。

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