彼の素顔は甘くて危険すぎる
時給計算できないバイトって?!
芸能人やプロ選手が多く在籍している学校に通っていれば、それなりにトラブルも多いのは承知の上。
妬まれることや脅されることもよくある話。
けれど、恋人から嘘を吐かれたり秘密にされるのとは話が別で。
例え誰からに脅されたとしても、嘘だけは吐いて欲しくなかった。
脅されたこと自体を黙っているのは仕方ないにしろ、俺に嘘を吐いてまで関係を清算しようだなんて、以ての外。
そんなにも俺のことを信用できなかったのだろうか?
そりゃあ、『SëI』という存在を秘密にしておきたいというのはあるけれど。
だからといって、ひまりを手放すくらいなら、公表したって構わない。
それこそ、『SëI』に恋人がいると公表したっていいくらいだ。
俺の感情はとうに沸点を超えていて、それを宥めすかして今日まで来た。
さて、そろそろお仕置きといきますか。
壁に張り付ける手に、更に力を籠める。
少しくらい痛かろうが、緩めるつもりはない。
彼女の顔が少しずつ歪んでゆく。
その顔に近づき、追い詰める。
「俺のこと、そんなに信用できない?」
「……え?」
「俺が『SëI』だとバラすぞとでも脅されたんだろうけど、例えバレたとしても、どうってことないだろ」
「……そうなの?」
「ファンが殺到するとか、取材が増えるとかあるかもしれないけど、それとひまりと別れるのとは話が別だって」
「………」
「俺が『SëI』で、この顔が世間にバレたとしても、……別れるつもりは微塵もないから」
「っ……」
「それと」
「……?」
「簡単に別れるつもりなら、……最初から付き合ってない」
「っ……」