彼の素顔は甘くて危険すぎる
「俺が頼んでも描いてくれんの?」
「え?」
「例えばの話で」
「……うん、もちろん。不破くんならタダで描くよ?」
「いや、そこはちゃんとお金取らないと」
「貰えないよ」
「仕事として依頼するなら、取らないと」
「………仕事ねぇ」
夏休みに旅行をする為にお小遣いが欲しくて親に相談した結果、今の状況にあるんだけど。
単なるバイトではなくて、仕事として誰かのために描くとか、考えたことがない。
描きたい時に描きたいものを描きたいだけ描いて来たから。
「不破くんは『SëI』として活動してて、誰かに依頼されて曲作ったことある?」
「今のところは無いかな。作った曲の出来がよければ、契約する感じだから……」
「……だよね」
「作曲家として、先に詩があって、それに曲付けるとか今後は出て来るかもだけど、今はまだ考えてない」
「そうなんだね」
「そういうスタンスで事務所と契約してるから」
「そっか」
プロとして、ちゃんと方向性が決まってるんだ。
私なんて、描ければいいとか、上手くなればいいくらいにしか考えてない。
やっぱり、そこがプロと素人の差なんだろうなぁ。
「お金云々じゃなくて、俺が曲を作るためのインスピレーションが欲しいから、幾つか好きなモチーフで描いてって頼んだら、描いてくれんの?」
「好きなモチーフ?」
「例えば、宇宙とか海とか、夕焼けとか。あとは難しいかもだけど、風とか悲しいとか抽象的なものも含めて」
「……ご希望に沿うかは別だけど、私なりの感性で良ければ描けるよ?」
「じゃあ、描いて?そこから新曲のヒントになるかもだから」
「……そんな大事なものを私が?」
「ひまりだから、だよ」