彼の素顔は甘くて危険すぎる

ひまりだから……。
嬉し過ぎる言葉。

描き手にとって作風ってそうそう変わらない。
技法や画材を変えて、幾らタッチを変えても、全体的な雰囲気は中々変わるもんじゃない。

それは感性がそうさせるからで。

それこそ、失恋しただとか、誰かを愛したとか。
裏切られた、切なくて苦しいだとか。
激情に似た感情のまま筆を走らせたら多少は変化するかもだけど。

人間、そんな簡単に感性が変わるものじゃないから。

「紙、貰うぞ?」
「どうぞ」

机の上にあったメモ帳とペンを手にして何やら書き始めた彼。
そんな彼の隣に座って覗き込むと、そこにはさっき言ったようなモチーフになる題材が沢山記されていた。

「この中から好きなやつを選んで、好きなだけ描いて」
「画材は?」
「何でもいい。それも込みで自由に、想像を膨らませてひまりらしい作品を」
「いつまで?」
「……永遠?」
「え?」
「これからずっとっていう意味」
「え、ちょっ、……どういうこと?」
「俺の専属でっていう意味」
「……専属……?」

言ってる意味が分からない。
何が専属なのかも分からないけど、何で私に描かせたいのかもさっぱり分からない。

「とにかく、……描いてみて」
「うん、……分かった」

彼がして欲しいならしてあげたい、何でも。

「ひまりも」
「ん?」
「曲作って欲しいなら、言って?」
「え、私はいいよっ!『SëI』のリリースされてる曲で十分だもん」
「独り占めしたいとか、……そういうのは無いわけ?」
「っ……、今でも十分すぎるもん」
「もっとわがまま言っていいのに」
「じゃあ、……録音させて?」
「歌ってるとこ?演奏?」
「ううん、そういうんじゃなくて」
「ん?」
「ひまり、朝だよ。起きて……って起こされたい」
「フフッ、そういうやつね」

< 179 / 299 >

この作品をシェア

pagetop