彼の素顔は甘くて危険すぎる

彼の自宅で夕食を食べ終え、キッチンで食器を洗っていると。
突然、背後から抱き締められた。

「夏休み、ロスに帰るんだけど」
「……ん、この間、聞いたよ?」
「一緒に来る?」
「………へ?」

今、何て?
一緒に来る?って言わなかった?

「どういう意味?」
「1カ月以上も離れるの、無理」
「無理って言われても……」

休みに遊びに来る?的な感覚なのかもしれないけど。
距離が距離だよ。
太平洋を跨いで、相当な距離があるんだけど?

「運がよければ、ハリウッドスターにも会えるよ?」
「えッ?!」

ニヤリと腹黒い笑みを浮かべた彼。
ハリウッドスター専門のエージェント会社だと聞かされてるから、嘘は吐いてないんだろうけど。

かと言って、『行きたーい!』と簡単に返事出来るものでもないし。
そもそも、パスポート持ってないのに。

「不破くんみたいに英語話せないし、……考えとく」

ハッキリ断るのも可哀そうかと思って、ついついはぐらかしてしまった。
まぁ、通じるよね?

「航空券なら俺が手配するし、うち結構部屋数あるからホテル取らなくても済むし。超お得だよ~♪」

悪魔の囁きってこういうのを言うんだろうね。
耳元で、甘~い声音で『おいで~おいで~』って言ってる。
怖い怖い。
新手の『おいでおいで詐欺』だよ、これ。

先月末に仮契約したから、今週末に最初のバイト料が振り込まれる予定だけど。
きっとそれだけじゃ海外旅行だなんて無理に決まってる。

けど、行ってみたいな。
不破くんの本当のおうちがある所。

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