彼の素顔は甘くて危険すぎる
不破くんには旅行の許可が出たことは内緒にしてある。
だって、まだパスポート取れてないから。
不破くんは夏休み初日にアメリカへと発った。
もちろん、母親に付き添って貰って羽田空港まで見送りに行って。
その足でパスポートの申請と、旅行に必要なものを買って準備を始めた。
初めての海外旅行。
毎日のように母親がチェックしてくれている。
「ひまり、ご両親へのお土産は?」
「あ、まだ用意してない」
「明日、買いに行かなきゃね」
「うん」
夏休み6日目。
明日、パスポートを受け取りに行く。
航空券は、ママに内緒でパパが用意してくれることになってる。
しかも、お小遣いもくれるらしい。
ママは結構体裁を気にするタイプ。
『あちらのご両親に…』が最近の口癖。
既に娘を嫁がせる勢いなんじゃないかと思うくらい、力の入れようがハンパない。
昨日なんて美容院に連れて行かれ、念入りにトリートメントを頼み込んでた。
それに、手土産もさることながら、私が着る服も母親がチェックして用意している。
自宅で穿くようなショートパンツは好まれない!と速攻で却下された。
で、夏らしい涼しげなワンピースやブラウスが多めに荷造りされてる。
それでも、こっそりショートパンツは忍ばせるつもりだけど。
「ひまり、これ何なの?」
「ん?あ、それ、画材道具」
「えっ?!アメリカまで行って描く気なの?」
「鉛筆で描くだけだよ。絵具は持って行かない」
「ホントに困った子ねぇ……」
荷物になるからと、結構断念したものも多い。
だけど、1冊くらいは持って行きたい。
描きたい景色があった時に、後悔だけはしたくないから。