彼の素顔は甘くて危険すぎる
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放課後の教室。
クラスメイトが次々と下校するのを見送る。
「ひまちゃん、また明日~」
「また明日ねぇ~」
「橘、ノート助かった。サンキュ」
「どぉ致しまして~、追試頑張ってね」
「おぅ!」
英語が赤点の小関くんに貸したノートを受け取る。
テストで高得点は取れなくても、ノートは一応完璧に纏めてあるから。
「橘、悪いっ。帰る際にこれを進路指導室に返却しといてくれ」
「………あ、はい」
玄関ホールの脇にある進路指導室。
帰宅するのに玄関に行くのだから、必然的に進路指導室の横を通るんだけど。
何でいつも私なんだろう?
6限目のLHRで使用した資料を返却するのに、女子より男子の方が重いものを持つのに適してるのに。
って、脳内で文句言っても仕方ないか。
面と向かって言い返せないんだから。
リュックを背負った私は、教卓の上の資料が入った箱を手にして教室を出た。
重くは無いけどバランスが悪い。
箱から飛び出すように丸められた模造紙が幾つもあり、階段を一段一段下りる度にグラグラと揺れる。
視界不良状態で壁伝いに下りていた、その時。
「あっ、……んッ?!」
「………平気か?」
「へ?」
資料がばらつき、箱から飛び出そうなのを手で押さえようとした際に体勢を崩してよろけてしまった。
その私の体を誰かが支えている。
しかも、どこかで聞いたような声に体が反応してしまった。
声のする方に視線を向けると、そこにいたのは不破くん。
眼鏡越しの彼を間近で見て、睫毛が長いことを初めて知った。
「ありがと」
「………」